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午後五時四十五分。日に日に、会社を出る時間の空の蒼さが濃くなる。
それと反比例するかのように、夜の繁華街はあでやかさを増していっていた。 パフェはほぅっと息を吐く。パフェの息は白くなって虚空に流れていった。 11月まであんなに暖冬だと騒がれていたのが、嘘のようだ。今ではもう、コートとマフラーがないとやっていけない。 謎の男から声をかけられた日から1ヶ月が経とうとしていた。パフェはそれなりに不安な日々を送っていたが、それも一ヶ月のうちにだいぶ薄れてしまった。 金色のネオンに彩られた街を見て、バラッド・タウンから来たメールを思い出す。今ごろクリスマスイベントのまっただ中だろう。 (あー、バラッド・タウンに行きたいなぁ)ため息をつくパフェ。 ここ一ヶ月間、パフェは全くログインをしていなかった。 *** *** *** locaと一緒にポリスに相談に行ったあの日。 そこにいたのは若い男女の警官だった。 「分かりました、こちらでも調べてみます。それでですね、」と、説明していた女性がいったん言葉を切った。 「パフェさんにお願いしたいんですが、ことの真相がはっきりするまで、ここにログインするのを控えて頂きたいんです」 柔らかな口調だったが、そこには有無を言わせない雰囲気があった。 パフェはちょっとためらう風に頷いた。 *** *** *** 「あ〜ぁ、つまんないなぁ。どっか寄っていこうかなぁ」 横断歩道の前で呟いた。幸い、月初めなので懐は暖かい。 向かい側には若者向けのオシャレな店の入ったデパート。どっしりと建って両手を広げて待ってるかのようだ。 (何か温かいもんでも、飲んでかえろう) 決心して、パフェはデパートの中に入った。 デパートの壁に付いた巨大なテレビが、午後六時のニュースを流しはじめた。 # by cacaon_a | 2005-12-01 17:45 | chapter 1
11月19日(土) *** *** *** 「よし、オーケー。ちゃんとログオフしたようだぜ」 交番内にある大きなディスプレイに目をやってキミヒコは言った。 「にしても、可愛い子だったなぁ、おい」言いながらキミヒコは後ろで業務日誌を書いているアサノの方に身体を向けた。 アサノは黙々と日誌を書き続ける。シャーペンを走られる音がやけに大きく響いた。 「……じょーだんだよ」 アサノの無言の圧力に根負けしたキミヒコは、ぽりぽりと頭を掻いた。まるでいたずらを見つかってしまった子どものようだ。 「にしても、思わせぶりなセリフだな、バラッド・タウンに気をつけろっていうのは。どういうことなんだ?」キミヒコは眉をひそめた。 「はったりをかましただけかも知れないわよ」 突然、アサノが口を開いた。 怪訝な顔をして、キミヒコはアサノの方を向いた。 「だって、バラッド・タウンやってない人を数えるほうが難しいって言われているぐらいなのよ、今は。取りあえずそういう風に言っただけかも」 アサノの言葉を聞いて、キミヒコは険しい表情を浮かべた。 「悪質ないたずらってことか……」 アサノは追い討ちをかけるように言った。 「だからといってハッカー、つまりパフェさんの個人情報を何らかの手段で知っているという可能性も否定できない」 アサノの言葉に、キミヒコは何も言わずに頭をかかえた。 # by cacaon_a | 2005-11-19 16:06 | バラッド・タウン交番日誌
11月18日(金) # by cacaon_a | 2005-11-18 23:29 | バラッド・タウン交番日誌
その夜、バラッド・タウンからユーザーに向けて一斉にメールが送信された。
バラッド・タウンユーザーの皆さまへ 祭りの誘いを受け取ったものは、それぞれワクワクする予感で胸を膨らました。 その裏に隠されたトリックの存在すら知らずに……。 # by cacaon_a | 2005-11-16 00:28 | chapter 1
あたりはすでに薄暗くなっていた。
「うんじゃ、家に行こか」locaが口を開いた。こくりとパフェは頷く。 しばらく、二人は無言で歩いていた。 大通りではネオンや街灯が点灯して、華やかな印象を誇っていた。デートスポットには持って来いといった雰囲気だ。 急に大通りから小さな路地に入り込む。 まるで結界を張ったかのように、しんと静まっている。路地に立ち並ぶ家の一軒にlocaは入った。 locaが電気のスイッチを入れる。ぱち、と音がして部屋が明るくなった。全体的に、オフホワイトを基調としたシンプルなインテリア。locaの派手な外見からは想像が付きにくい。はじめて来た客にはかなり驚かれる部屋だが、オフで彼女を知っているパフェにとってはそんなに驚くことではない。 ひとまず落ち着いたところでlocaは口を開いた。 「……それで、何かあったん?」 # by cacaon_a | 2005-11-12 17:05 | chapter 1
”ログイン完了しました。バラッド・タウンにようこそ。どうぞ、お楽しみください"
聞きなれた女性の合成アナウンスが、耳もとで聞こえた。パフェはその声を聞いて、歩き出した。 午後4時の空は、キレイな夕焼けを見せていた。レンガ造りの建物に、西日が当たっている。架空の街ながら、現実の世界と同じ時間に設定されているのだ。 どこか、メルヘンチックな街。ここはテーマパークです、と力説するような景観を誇っている。 いつもなら、遊園地のような風景にうきうきするパフェだけど今はそんな気にはなれなかった。 (あの人……。何でわたしがここの利用者だってこと、知っているの……?)しかめ面をしながら、パフェの脳裏に浮かぶのはこんな疑問ばかり。 ”バラッド・タウンには気をつけな” 謎の青年に、朝の電車の中でそう言われてから一週間ちょっとが経った。 当然のことだが、バラッド・タウンではオフラインの情報については非公開になっている。ログイン中に表示される彼女の容姿も、バラッド・タウンから提供されるテンプレートを組み合わせて作ったものだ。これから彼女の身元が分かってしまうということは、まずあり得ない。 しかし。 あり得ないことが、実際に起こったのだ。 怪コメントのこともあって、さすがにパフェは怖くなった。 (locaちゃんに相談しよう、やっぱり) 最初は心配かけちゃいけないと思って、相談しなかった。しかし、こうなったからには相談しよう。そう思い、パフェはlocaにコンタクトを取った。 快くOKしてくれたlocaに感謝しつつ、パフェは待ち合わせ場所に急いだ。 * * * 街を貫く大通り。そのちょうど真ん中には大きな噴水があって、ちょっとした公園になっている。 パフェは噴水の側に立っている時計に目をやった。 約束の時間まであと十分ほどある。 パフェは噴水の周りににあるベンチに腰をかけた。 噴水の周りは、土曜の夕方にしては人が少なかった。 パフェと同じく人待ち顔の少女。ジョギングをする男性。優雅に、小さな竜をつれて散歩する女性。 パフェはそれらに人々をぼんやりと見つめていた。 「やぁ、先に着いとったんか。待たせたな」 そう言いながら、銀髪の若い女性は手を振ってパフェに近づいてきた。 「locaちゃん!」 思わず笑顔を浮かべて、パフェは立ち上がった。 # by cacaon_a | 2005-11-12 16:30 | chapter 1
朝。
込み合った電車の中で、一人の女性がつり革につかまって立っていた。眠そうな顔をして、時折大きなあくびをかみ殺す。 (あぁ〜、眠……。オールしちゃったからなぁ)また出てきたあくびをかみ殺して、心の中で呟いた。昨日もまた、ネットの世界にどっぷりはまり込んでしまった。 何だか、今ここにいる普通のOLの自分より、パフェと名乗っている自分でいるほうが、気が楽だ。 居心地が良いから、時を忘れてしまう。 ノートを書いていたら、二時間が過ぎていたなんてことはザラである。 気掛かりがないわけではない。 ちょっと前に書かれていた、謎めいたコメント。コメント者名はわからなかった。 普通ならログアウトしていなくても、コメントが書かれたらアラームが鳴って知らせてくれる。ちなみに、ノートを書くだけなら、普通のバラッド・タウンにログインしなくても書けたりするのだが。 何とそのコメントは、パフェがバラッド・タウンに入るまで気づかなかったのだ。 書かれている内容は、意味不明だった。しかし、『架空の街』っていうのがバラッド・タウンを示しているのだろうなということは、わかる。 ちょっと気味が悪い。 (……locaちゃんに相談してみたほうがいいのかな?) ただのいたずらならともかく、ネットの世界のことだから何が起こるかわからない。不安な気持ちになった。 電車は緩やかにカーブを曲がり、車掌が駅につくことを告げる。 その時。 背後から誰かが近づいて来るのを感じた。 「……君、バラッド・タウンには気をつけな」 「へ?」 背後から急に話しかけられて、パフェは思わず間の抜けた声を出した。 「あの街に、のめり込み過ぎるんじゃない。わかったね」 がくんと、電車が揺れて止まった。 「え、あ、あの!?」 戸惑いの声を上げるパフェをよそに、そいつはホームへと降りていった。 電車のドアが閉まる。 戸惑うパフェを乗せて、電車はゆっくりと発車した。 # by cacaon_a | 2005-11-02 02:26 | chapter 1
パフェがコメントを書き込んだ、その夜のことである。
誰もいないパフェのバーチャル・ルームに、来客を知らせる電子音が鳴った。カタリ音がして、ドアが開く。 誰かが、入ってきた。 その人物はおもむろに、机の上のノートに詩のようなものを書き始めた。 * * * ここは 架空の街 * * * そいつは、書き上がったものをみて、満足げにほほ笑んだ。そして、きびすを返してどこへともなく去っていった。 # by cacaon_a | 2005-10-24 23:03 | prologue
はぁ、やっと基本設定が終わった〜。 * * * そこまで書いたところで、パフェは手を止めた。 目の前には、高そうな木製の机。アンティーク調のランプとラジオ。机を叩くとこつこつと音がするし、ラジオのスイッチを入れると音楽が流れてくる。 とても、この部屋が仮想現実だとは、パフェには信じられなかった。 ここは、バラッド・タウン。 仮想現実のオンラインタウンである。 ここには、会員に紹介された人なら誰でも、ネット上に自分の部屋を持つことが出来る。登場したのはここ最近だが、瞬く間に人々の間に広がった。 バラッド・タウンに入りたいがために、わざわざ仮想現実用のPCを買う人も出てきたくらいだ。 かくいうパフェも、その中の一人だったりする。 * * * リロン、と電子音が鳴った。 「はーい、あ、locaちゃん。来てくれたんだ〜」 「うん、どんな風ににしたかなって。興味があったんや」 関西弁のイントネーションで、少女は入って来た。 紺色のデニムの服に、銀髪のウルフヘア。派手な格好だが、この姿も実は仮想現実。locaという少女が、現実ではそんな格好をしないのは、パフェも知っていた。 「久しぶり。高校卒業以来、かな?」locaが、少しはにかんだように言った。 「うん。locaちゃん、元気してた?」 パフェは満面の笑顔を浮かべて、聞いた。 「まぁな。パフェはどうや。仕事、うまくいってんのか?」少し心配そうに、locaは聞く。 「大丈夫。何とか慣れたし。仮想現実用のパソも初任給で買っちゃった」ペロッと舌を出して、いたずらっぽく笑う。それを見たlocaは、ほっとしたように吹き出した。 「そっか。 ……でも、やり過ぎはあかんで。あんた、高校ん時から何かとのめり込むタイプやったからなぁ」まるで心配する姉のような口調で、locaは言った。 (変わってないなぁ、locaちゃん) しみじみとそう思う。懐かしさで胸がいっぱいになった。 「うん、気をつける。ホントにありがとう」 「ほんまやで。うんじゃ、うちもそろそろ帰るわ」ぱたぱたと手を振って、locaの姿はふぅっと薄れていった。 ログアウトをしたのだ。 # by cacaon_a | 2005-10-23 17:57 | prologue
こんにちは、ようこそおいで下さいました。
おかかといいます。どうぞよろしくお願いします。 * * * わたしはもともと『水辺の物語詩』というブログを持っています。そこではショートストーリーや日記やエッセイのようなものを書いています。 しかし、このブログ、もとは物語を書いてみたいと思って作ったのにも関わらず、日記などが多くなってしまったなぁという反省点がありました。 『水辺の物語詩』は、わたしがはじめて作ったブログですし、とても愛着があります。このブログをやっていていろんな人に出会えたし、その中で得がたい経験をしました。 だからこそ、ちょっと新たな試みとして、このブログを作りたいと思ったのです。 このブログでは、一つの世界観に基づいた物語をつづっていきたいと思います。『水辺の物語詩』が短編が中心なので、『Ballad In Waterside』は長編中心って感じですね。 なので、多少更新速度が下がるかもしれません。 近況や『BIW(長いので省略しました〜)』の執筆状況は、『水辺の物語詩』の方でお知らせしていきたいと思います。 * * * 『水辺の物語詩』とともに、このブログもよろしくお願いします。 2005年10月23日 おかか拝 # by cacaon_a | 2005-10-23 16:44 | news
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幻想の世界へようこそ。
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おかかとは。 主にブログで小説を書いている社会人一年生です。 *初めて来られた方へ* まず、こちらをお読み下さい。 *MY BLOG* こちらの方も、是非どうぞ。 水辺の物語詩 ゆめの海辺でみた月 人気blogランキングへ お気に入りブログ
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